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ハクスラ異世界に転生したから、ひたすらレベル上げをしながらマジックアイテムを掘りまくって、飽きたら拾ったマジックアイテムで色々と遊んでみる物語。

第474話【弟】

俺は深夜に目が覚めた。


何時ぐらいなのだろう?


窓から外を眺めたが、まだ暗い。


朝日は微塵も伺えない。


「ちょっと、寒い……」


うん、膀胱が緩くなってきたぞ。


仕方無いな。


面倒臭いが厠に行ってくるか。


出来れば誰かに代わって貰いたいが、今は一人しか居ないから自分でしてくるしかないだろう。


俺は諦めてベッドから起きると、全裸で部屋を出た。


いつも寝る時はシャネルの5番だと決めているのだ。


いや、いつもじゃあないかな。


最近決めたルールだ。


まあ、兎に角面倒臭いから服は着ないで部屋を出た。


どうせ開店前の宿屋だ。


人と出会っても知り合いしか居ないだろう。


だから問題無い。


そんな感じで俺は薄暗い廊下を歩いて進んだ。


宿屋の部屋が連なる廊下を過ぎると階段が見えて来る。


そして、酒場予定の一階テナントからは明かりが漏れていた。


誰かが居るようだ。


話し声が聴こえて来る。


二人だな。


両方とも女性の声だ。


相手が女性だと、流石に全裸で登場するのは不味いかな……。


に、しても、こんな夜更けに誰だろう。


俺は聞き耳を立てながら下の階を覗き見た。


ランタンが置かれたテーブルを囲んで二人の女性が酒を飲んで居る様子だった。


一人は髪が長い。


一人は短髪だ。


短髪のほうは顔が見えた。


ユキちゃんだな。


あの巨漢だから間違い無いだろう。


俺から見て背を向けて椅子に座っている女性はスカル姉さんかな?


まだ、こんな時間まで飲んでやがるのかよ。


本当に怠惰な女だな、スカル姉さんはよ。


しかもスカル姉さんはかなり酔っている様子だ。


ユキちゃんはそれ程でもない。


んん?


何か話しているぞ?


ちょっと盗み聞きでもしてみるか。


夜な夜なの女子トークには若干の興味があるからさ。


エロエロトークを期待するところだぜ。


ユキちゃんが言う。


「スカル姉さん、まだ飲むのかよ?」


「うっさいわね~。これが飲まずに居られますかってんだい、こん畜生が、ひっく」


うん、かなり酔ってる。


ウザイくらい酔ってるぞ。


しかもエロトークどころか愚痴話じゃあねえか……。


「何がそんなに納得行かないんだよ?」


「だってアイツは、私たちに黙って金塊を増やして居やがったんだぞ、ひっく」


あ~、まだ神々のスコップの話をしているのかよ。


そんなに何が納得行かないんだ?


それが俺も聞きたいわ~。


むしろ納得行かないのは、俺のほうだろ。


なんで俺があんな仕打ちを受けなければならんのだ。


それが聞きたいぞ。


「別に金を増やすことが悪いことじゃあないだろう?」


「違う違う違う~。金を増やすのは問題無いんだよ、ひっく」


「じゃあ、何が問題なんだ?」


「だから私たちに黙っていたことだって言ってるだろ~、ひっく」


早くもリピートかい……。


この酔っぱらいは癖が強そうだな。


「なんで私たちに黙ってお金を増やすとダメなんだ?」


ナイス、ユキちゃん。


それが俺も訊きたかったぜ。


「だって、ほら、あれだろ……、ひっく」


「なんだよ?」


「男に要らない金を持たせたら、必ず女遊びに走るだろ……、ひっく」


そんな物なのだろうか?


「あー、あのエルフの若旦那もソドムタウンで遊び回って居たもんな~」


ああ、あのバカは女遊びをしていたな……。


でも、俺はそんなことをしないぞ!


したくったって、呪いが邪魔で女遊びが出来ないことぐらい、スカル姉さんだって知ってるだ
ろ。


俺が糞女神に呪われていることを知っている、数少ない人物なんだからさ。


「なんで、私が努力してアイツの町作りに協力しているかも知らないでさ……、ひっく」


「あれ、弟が町を作るって言い出したからじゃないの?」


「弟? 誰が? ひっく」


「アスランは、スカル姉さんの弟でしょう」


「血は繋がって無いわよ……、ひっく」


「えっ、そうなの?」


あー、ユキちゃんはあとからソドムタウンに来たから知らなかったのか。


マジで俺とスカル姉さんが本物の姉弟だと思ってたのかな。


「アイツは道端で行き倒れてたから、私が拾って育ててやったのよ、ひっく」


育てた?


んん~……、ちょっと違うような……。


でも、呪いに苦しんで行き倒れてたのは本当だな。


「へえ~、そうだったんだ~」


「アイツが似てたのよ……、ひっく」


「似ていた、誰に?」


「本当の弟に……、ひっく」


前にもそんなことを言っていたような……。


「その弟さんは、どうしたの?」


「………………」


スカル姉さんは沈んだ顔で黙ってしまう。


ユキちゃんも追求まではしなかった。


でも、スカル姉さんがポツリポツリと語り出す。


その口調は暗いものだった。


「事故で死んだんだ……、ひっく」


事故……。


それは、知らんかった……。


「私が冒険に行っている間の事故だったの……、ひっく」


「どんな事故だったのさ?」


「あの子はアスランに似て、元気でエロイ子だったわ……、ひっく」


「嫌なところだけ似ていたんだな……」


似てるか!?


「でも、私のことを気遣う優しい子でね……、ひっく」


優しいところは瓜二つじゃんか。


「私が顔と目を負傷した時も本気で心配してくれたんだよ……、ひっく」


そりゃあそうだろうさ。


実の姉が大怪我をしたんだ。


心配の一つや二つもするだろうさ。


「特殊な魔法攻撃で目が見えなくなっていた私の手を握りながら、毎日こう言うんだ。姉さん
が居ないと僕は死んでしまうよ、どうやって飯を食べて行けばいいんだ。家賃だって払えない
し、遊ぶ小遣いだって無くなるんだよ。だから早く良くなって稼いでくれってね……、ひっく」


「ひ、紐かよ……」


紐だな……。


完璧な紐野郎だな……。


しかも、かなり糞野郎的な紐だな……。


「でも、私の目が回復して、最後の冒険に発った晩に事故で死んだんだ……、ひっく」


「どんな事故だったんだ?」


スカル姉さんは、更に暗い声で述べる。


「最悪な事故だった……、ひっく」


どんな惨たらしい事故だったんだろう?


そして、少し間を開けてから語り出す。


「ソドムタウンで女の子と遊んだ帰り道で、屋台で買ったイカの串焼きを食べながら歩いてい
たらしい……、ひっく」


「それで?」


「階段で躓いて倒れた際に、食べていたイカの串焼きの串が喉に刺さって窒息死したらしいん
だ……、ひっく」


「うわ、間抜け!!」


うわ、間抜けだ!!


間抜けな死にかたしてるぞ!!


「だから私はアイツに女遊びをして貰いたくないんだ、ひっく」


「あー、んー、なんだろうね……」


ユキちゃんは呆れてるな……。


「特に女遊びのあとにイカの串焼きなんて、絶対に食べさせないぞ! ひっく」


分かった、食わね~よ!!


「絶対にアイツなら、多額のヘソクリを持ったら女遊びしてイカの串焼きを食べまくるはずよ
!! ひっく」


二度と串に刺さった食べ物なんて食わね~からさ!!


マジで誓えるぞ!!


「まあ、女遊びやイカの串焼きは置いといてさ、もっとアスランのことを信じていいんじゃな
いか?」


「信じられますか、あんなバカな弟をさ!! ひっく」


スカル姉さんが更に沈み込んだ。


「アイツも今の私と同じ気分だったんだろうなってさ……、ひっく」


「同じ気分って何よ?」


「たぶん、私が冒険に出ている間、凄く心配しながら帰りを待っていたんだろうなってね……、
ひっく」


「心配なんだ、アスランのことが?」


「そ、そんなわけ無いじゃん! ひっく、ひっく」


「はいはい、ブラコンなのね。スカル姉さんはさ~」


「ちゃうわ、あんな弟は可愛く無いもん、チェンジよ、チェンジ!! ひっく、ひっく、ひっ
く」


あー、ダメだ~。


怒鳴ったあとに、しゃっくりを連呼しながらテーブルの上に倒れたぞ。


ありゃ~、飲み過ぎだわ。


「すやすや、すやすや……」


あれ、寝ちゃったのかな?


それにしても、すやすや言いながら寝る人を初めて見たぞ。


「可愛さ余って憎さ百倍か~。だってさ、アスラン」


ユキちゃんがこっちを見てニコリと笑いやがった。


バレてやがる……。


俺は無言のまま階段を下りて厠を目指した。


しゃあねえな~。


しょんべんしてきたら、さっさと寝るか~。


「ところでアスラン。なんで全裸なのさ……?」


俺は振り返って答える。


「えっ、何か問題でも……?」


「大ありだ……」


「俺に惚れるなよ♡」


「少しでも恋心を抱いた自分が恥ずかしくなってきたぞ……」


その時である。


スカル姉さんがムクリと起きて大声で叫んだ。


「自分を信じてぇぇえええ!!」


「「うわっ!!」」


そして、また酔い潰れた。


テーブルに倒れ込むように眠る。




【つづく】
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