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ハクスラ異世界に転生したから、ひたすらレベル上げをしながらマジックアイテムを掘りまくって、飽きたら拾ったマジックアイテムで色々と遊んでみる物語。

第279話【実験体-18号】

なんだ、このマッチョ野郎は?


いきなり目覚めて、いきなり水槽から出て来たぞ。


開閉ボタンを持って水槽内に入ってたってことは、自分から水槽内に入ったってことなのかな



それに、やたらとフレンドリーだ。


マッチョ野郎は俺が見守るなか、水槽の横に付いていたタラップで降りて来ると、水槽にかかっ
てたシーツで体を拭きだした。


シーツを頭から被るようにして坊主頭をゴシゴシと拭いている。


そして、俺に問う。


「それで、どちら様でしょうか?」


「冒険者アスランだ」


「冒険者が、何故ここに?」


「それより、お前は誰だ?」


しかしマッチョ野郎は答えない。


体を拭き終わったマッチョ野郎は部屋の中をグルリと見回した。


それからテーブルのほうに移動する。


テーブルの上にはグラスとワインが置かれていた。


他のテーブルや机と違って、このテーブルだけ研究用の道具などは置かれていない。


おそらく食事専用のテーブルだったのだろう。


魔法使いブライは、食事だけは魔法の研究と区別ができていたようだ。


そして、マッチョ野郎はワインのボトルを取ると、グラスを使わずに中身をラッパ飲みした。


やっぱりこいつはブライじゃあないな。


ブライならグラスを使うはずだ。


これだけ乱雑な部屋なのに、飲食の区別だけはついた人間が、ラッパ飲みとかはしないだろう
さ。


「ふぅはぁ~~、久々の酒は旨いな~」


マッチョ野郎はボトルをテーブルに戻してから言う。


「私が魔法使いブライだよ」


「ほほう……」


あれれ〜、予想が外れた……。


いや、でも、やはり可笑しな話だな。


魔法使いブライがこの森にやって来たのが七十年も前の話だ。


それに友人の村長は、そろそろ寿命でヤバそうだから、自分が姿を見せなくなったら安否を確
認しに来てくれと頼まれていたはずだ。


ならば、魔法使いブライがこんなに若くないだろう。


どう見てもこのハゲは、二十歳そこそこに見える。


俺は少し前に歩んだ。


右にあるテーブルには本が沢山積まれており、俺の肩の高さまで積まれていた。


その本の山のてっぺんに、ワインの空瓶が一つ置かれている。


「俺が聞いた話しだと、魔法使いブライって、相当のジジイのはずだ。あんた、誰だい?」


「若返ったブライです。魔法の成功ですよ。昆虫の生命力に潜む神秘を掘り起こして発見した
のだよ。人間を若返らせる方法を!」


「それが、寄生虫ベェノムか?」


「知ってたのか、おまえ!」


瞬間である。


マッチョ野郎の顔が力み、それと同時に腰が沈んだ。


その動きが戦闘開始の合図だった。


俺はすぐさま体を振るう。


腰を落とすのと同時に右手を振るい、右にある本の山の上の空瓶を手で弾いた。


俺に横殴られた空瓶が、真っ直ぐマッチョ野郎のほうに飛んで行く。


「うわっ!!」


いきなり酒瓶が飛んで来たのに驚いたマッチョ野郎が、身を反らして酒瓶を回避した。


的を外した酒瓶は背後の本棚に当って粉砕する。


回避はできたがマッチョ野郎の先手は挫かれた。


俺の次なる行動は、酒瓶を弾いた流れで腰の黄金剣を掴む。


そして、マッチョ野郎の隙を付いてからの攻撃が炸裂した。


「ダッシュクラッシャー!!」


3メートルダッシュからの居合い斬り。


ダッシュの間に鞘から引き抜かれた黄金剣が加速を増して、逆袈裟斬りにマッチョ野郎の胸を
下から上へと斬り裂いた。


骨を断った感触があった。


決まった!!


今回ばかりは余裕は見せてられない。


何せ、片腕だからな。


どんなに詰まらなかろうが、勝たなければならないのだ。


でも────。


レベルアップしないぞ?


こりゃあ~、決まって無いわ……。


マッチョ野郎は致命傷の深さで斬られたのに叫び声すら上げなかったし、倒れもしないぞ。


何より、切られた胸から血が出て無いわん。


俺は斬った余韻を味わうように俯いていたが、視線を上に向ける。


「いきなり斬りかかるなんて、酷い人間だな」


こいつ、余裕だな……。


刹那!


マッチョ野郎の前蹴り。


まるでサッカーボールでも蹴り上げるかのような掬い上げる蹴りが俺の顔面を襲う。


俺は黄金剣を持つ手を前にして、マッチョ野郎の蹴りを防いだ。


だが、強い衝撃に体ごと後方に飛ばされる。


しかし、着地。


蹴り飛ばされた俺は、元居た場所まで戻っていた。


即ち、3メートルも蹴り飛ばされたわけだ。


凄いパワーだな。


腕が痛いわ~……。


「なんだ、あんた化け物か?」


俺がマッチョ野郎に視線を戻すと胸の傷が塞がって行くところだった。


マッチョ野郎が答えるころには傷跡は消えている。


「化け物? 何を言うんだい。私は人間だ。キミと変わらない人間だよ」


「馬鹿言っちゃあいけねえや。普通の人間は、斬られたら死ぬんだよ。胸をザッパリと斬られ
て、肋骨から胸骨まで斜めに開かれたんだぞ。普通死ねよ」


「私は普通ではない人間なんだ」


「あと、それとだ。チ◯コが無い人間は、絶対に人間じゃあないぞ!」


「えっ、そうなの……?」


「うん、それだけは譲れないぞ」


マッチョ野郎が再び深く腰を落とした。


「ならば、お前のチ◯コをもぎ取って、私に移植してやるぞ」


「うわぁ~……」


この野郎、マジで言ってるよ!


何こいつ!?


マジで怖いわ!!


 マッチョ野郎がダッシュした。


ハゲ頭の高さに拳を構えて、真っ直ぐに俺に飛び掛かる。


俺は剣の腹を振るって、横のテーブルに積まれていた本の山を崩す。


すると、倒れた本が走って来たマッチョ野郎の足元を襲い、それで進行を阻んだ。


「おおう!?」


はい、また隙ができましたぞ。


ベェノムはズル賢いって聞いてたが、戦闘は素人だな。


「はい、突き」


俺の繰り出した黄金剣の突きがマッチョ野郎の頭を串刺しにした。


鼻の頭から突き刺さった刀身が、後頭部に覗き出ていた。


するとマッチョ野郎の両膝が崩れて体重が黄金剣にのし掛かって来る。


容易いな。


だが、死体が踏ん張った。


「えっ!?」


ウソ~~ん……。


沈みかけたマッチョ野郎の体が踏ん張ると、俺に向かって拳を振るって来たのだ。


ストレートパンチ!


防がねば!?


右手は黄金剣を握りしめているから使えない。


ならば、左腕でガードだ。


あれ、無い……。


そうだった!!


左腕が無いんだったわ!!


「ぶしゅ!!」


俺はマッチョ野郎のストレートパンチを顔面で受け止めていた。


鼻の頭を強打されて潰されると、拳が振りきられて俺の体が後方に倒れる。


俺は全身を伸ばして、まるで丸太が倒れるように転倒した。


後頭部を軽く床に打つ。


それでも俺は、マッチョ野郎の顔面に刺さっていた黄金剣を離さなかった。


俺が倒れる勢いで、黄金剣はハゲ頭から綺麗に抜け出る。


ちくしょう!!


殴られた!!


ダウンした!!


俺が顔を上げるとマッチョ野郎は横のテーブルに手を付いて、ぐったりとしていた。


それでもダメージは有るようだな。


顔面には剣で刺された穴が開いていたが、少しずつ塞がって行く。


俺は黄金剣を杖代わりに立ち上がると、再び戦意を前に剣を構えた。


「い、痛いな、もー。頭を刺すなんて……」


完全に傷が塞がったマッチョ野郎は、堂々とした姿勢に戻す。


バーロウ。


胸を切っても駄目……。


頭を刺しても駄目……。


どこが急所ですか!?


金玉も無いしさ!!


なに、こいつ、嫌いだわ~。




【つづく】
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