そこは右も左も豪華絢爛なロビーだった。
金色に輝く甲冑の置物に、畳み一枚分もあるモッチリワイズマンの肖像画。
床のカーペットは可憐で真っ赤だし、高い天井からは鮮やかなシャンデリアがキラキラとぶら
下がっていやがる。
ロビーの広さだけで、俺がベルセルクから借りた部屋の数十倍はありそうであった。
なんだろう。世界って不平等だよね。
あー、なんだかな~。
なんか火を付けたくなって来たわ。
そんな感じで俺がプチ絶望を味わっていると、二階の廊下からワイズマンが姿を現した。
「いや~、マヌカハニーくん、遅かったね。そんなに仕事に手間取っていたのかい~?」
優雅にワイングラスを片手に持ったワイズマンは俺の姿を確認していなかった。
おそらくマヌカハニーが俺を連れて来るとは思ってもいなかったのだろう。
そんなことよりだ。
ワイズマンの姿に問題があった。
俺はそれを苦言してやる。
「ワイズマンのおっさん。なんでお前さんは、ブラジャーにパンティー姿なんだ?」
「はっ!?」
俺の声を聞いて驚くワイズマンが、女性物の下着姿を両手で慌てて隠した。
勿論ながら、隠しきれていないがな。
「な、なんでアスランくんがここにいるのだ!?」
「仕事でゴモラタウンに来たんだよ」
「ちょ、ちょっと待ってなさい!」
慌てて部屋に戻ったワイズマンが白いバスローブを羽織って戻って来ると、わざとらしい笑み
で言い訳を述べる。
「いやいや~、失礼したね……。マヌカハニーくんだけかと思ったから、ついついオープンな
格好で出てきてしまったよ……」
「いやいや、マヌカハニーさんに失礼だろ」
「私は慣れていますから、構いませんよ」
「何故に慣れた!?」
「最近ワイズマン様がソドムタウンに遊びに行くようになってから、異変が多くて心配してい
たのですがね。まあ、あんな下品な町に遊びに行くのですから、それ相応のご趣味をお持ちな
のだと理解を深めたしだいで」
微妙に酷い言い方だな……。
まあ、反論できないだろうけどさ。
「しかも最近では自宅内で、あのような変態的な格好ばかりしております。それをわざわざ私
に見せて反応を楽しんで居る節もございますから」
「それは完全にセクハラだね。訴えて良しだ」
「まあ、私としては楽しいので構いませんがね」
「うん、あんたも俺が思っていた以上に変態だな」
そんなこんなで俺とマヌカハニーさんは客間に通される。
普通の着物に着替えたワイズマンが戻って来た。
「ところでアスランくんが、何故ゴモラタウンに居るんだい?」
「さっきも言っただろ。仕事だよ」
「冒険者のかい?」
俺は胸から銀のプレートネックレスを見せる。
「ほほう、城に居るのか。なんだか大事のようだね」
「分かる~?」
「お城の誰が上げたか知らないが、城に冒険者が入るなんて、そうそう無い話だからね」
「へぇ~、そうなんだ」
「でぇ、話とは何かな?」
俺は畏まってから答える。
「おそらくなんだけどさ。しばらくこの町で拾ってきた様々なアイテムを捌きたいんだけど、
どこで取り扱ってくれるのか教えて貰えないか?」
「ああ、物にもよるが、キミが集めて来そうな物なら私が預かって捌いてやろう。そのぐらい
の人脈は持っているぞ」
よし、期待通りだぜ。
話が早くて助かった。
「あと、ベッドが欲しい。今日寝る場所が無いぐらいだからさ」
「んー、それは急いで手配しないと間に合わないな。それならどうだろう。今日は私の家に泊
まっていくってのは、はぁー、はぁー……」
何故に息が荒くなる!?
こえーーよ!!
「そ、それは遠慮しとくぜ……」
「そうかね。それは残念だ。では、どこに届ければいいんだね?」
「城に泊まってるから、城に頼むわ」
「貴族プレートを持って城に泊まってるのに、ベッドが無いのかね。それは可笑しくないか?」
「うん。ベッドの無い部屋をあてがわれた」
「それ、誰か城の者に言って、ベッドを用意して貰ったほうが早くないか?」
「んー、俺が城に居るのは、秘密みたいだから、そんなわがままいいのかな?」
「そのぐらい、良くないか?」
「分かった。ベッドは城の人に訊いてみるわ」
「それがいいんじゃあないかね。──でだ」
そこまで言ってワイズマンの顔色が怪しく染まった。
悪巧みの顔である。
「どんな仕事をしているんだい?」
「本当は秘密なんだが、少しだけヒントをくれてやろう」
「おお、ありがたや!」
「城に在る閉鎖ダンジョンの入り口から入って、ある人を探してくるって仕事だよ」
あれ、ほぼほぼまんまになったかな?
まあ、いいか~。
「ほほう。やはり噂は本当だったのだね」
「噂って?」
「閉鎖ダンジョンは年に一度だけ、三日間解放される。しかし城からなら何時でも入れるって
噂話があったのだよ。昔からね」
「へぇー、そうなんだ~」
「なるほど、なるほど。そこから持ち出したアイテムを私に捌いて貰いたいってことだな」
「まあ、そんなところだ」
そこまで話していると、部屋の扉が開いてパンダの剥製がお茶を運んで来る。
「なぜ!?」
驚く俺を見てワイズマンが小首を捻りながら問う。
「何を驚いているのかね、アスランくん?」
「なんでソドムタウンの冒険者ギルドに在るパンダの剥製がここに在るんだよ!?」
「ああ、これかね。この製品は私の店の代物だよ」
「えっ、マジ!?」
「ああ、本当だとも。マヌカハニーくん、このパンダのゴーレムは、幾らぐらいで販売されて
いるのかね?」
俺の隣でお茶を啜っていたマヌカハニーさんが静かに答える。
「たしか100000Gちょっとだったと思いますが」
高い!?
ババァ~の首と同じぐらいの値段かよ!!
パンダは高額だな、おい!!
【つづく】