俺は紐付きの巾着袋に、ルビーの原石を入れると首に下げた。
これが今一番大切なマジックアイテムだ。大事にしなくてはならない。
ルビーの原石+3。
魔法の効果は戦闘時の幸運向上×3だ。
今思い出してみても、なんだか戦闘時に幸運だったのかも知れない。
ダンジョンっぽい通路で一列に走って来るスケルトンが、重なり合うように転んでくれたり、
コボルトが転がした岩にぶつかってくれたりとかだ。
もしかしたら、このルビーの原石のお陰だったのかも知れない。
だとすると、なかなか良い物を拾ったことになる。
流石は俺様の【ハクスラスキル】だ。凄いぜ。
まあ、勝ちは勝ちだ。
マジックアイテムも所有者の実力の内って、誰かが言ってたっけな。
誰だか覚えていないけれど──。
とりあえず、もう一度ステータス画面で、色々と確認しておこう。
まず、レベルは3まで上がった。
経験値は100までゲット中。
スキルを覚えて、若干は便利になったが、強くなっているかは不明だ。
実感は無いが、少しは強くなっていることを祈ろう。
そして、覚えたスキルは、【アイテム鑑定】と【魔力感知】だ。
どちらも冒険には必須だが、強さには関係無いのが寂しいな。
俺は、もっと派手にバトルをしたり、冒険したりしたかったんだがな~。
まあ、それは今後の楽しみに取っておこう。
それと、覚えた魔法は【マジックトーチ】だな。
暗い場所やダンジョンでしか役に立たない。
いいや、ここは文明が低いファンタジー世界っぽいから、簡単に光を作れるのは凄いかもしれ
ないな。
その辺は、そこの村に下りたら、人の営みを観察してみてから結果を出そう。
先ずは世界観を正確に掴んでみないと分からんな。
あと、拾った物と言えば、ダガー+1だ。
これも【ライト】の魔法が掛かっている。
しかし、マジックトーチと効果が被っている。
あまり必要なさそうだから、金に替えようかな。
正直なところ要らないや。
お金も11Gしかないし。
よし、村に下りるぞ!
腰巻きの両脇に、ショートソード二本を刺してから俺は歩き出す。
山を下った。
目指すは麓の村だ。
そして、あっという間に到着したぞ。
村の規模は、かなり小さい。
山の上から見ていて分かってたけれど、家の数は十軒程度だった。
村の入り口には、門もなければ防壁もない。
だから警備も居ない。
どこからでも村には入れたから、俺は正面から堂々と入って行った。
村の中は呑気なものだった。
村人と思われる老人たちが、家畜の羊と一緒に日向ぼっこをしていたり、子供たちが棒を振り
回してチャンバラをして遊んでいたりする。
平和そのものである。
コボルトたちに狙われていたことに気付いてないのだろう。
さて、どうしたものか……。
とりあえず、宿屋でも探そうかな。
ファンタジーで冒険の始まりと言えば宿屋だ。
この世界も宿屋と酒場はセットだろう。
てか、探すのは面倒臭いから人に訊こう。
とりあえず、チャンバラをやってる三人のキッズに訊いてみる。
「なあ、坊やたち。この村には宿屋は無いかい?」
キッズたちはチャンバラをやめて俺の周りに掛けよって来た。
身形は粗末な男の子たちであった。
ズボンしか穿いていない子。
頭に十円ハゲが出来ている子。
鼻水を垂らしている子。
どの子も埃っぽくて汚らしいし、マヌケ顔だった。
やはりこの村は貧乏なんだなと思った。
そして、上半身裸の小僧が言った。
「なんで、おにーちゃんは、靴があべこべなの?」
「俺にも色々とあったんだよ……」
俺は青い空を見上げながら言った。
ガキどもは不思議そうに俺の顔を見上げていた。
すると、俺の後方から女性の声が飛んで来る。
「あんたたち、いつまで遊んでるの。仕事を手伝いなさい!」
若い女性の声だった。
声からして可愛い。
俺が振り返ると、そこには16歳ぐらいの少女が立っていた。
ポニーテールのスカート姿。
ちょっと怒ってるような表情がいなせで可愛かった。
一目みて俺は思った。
「一目惚れ!」
だが、次の瞬間───。
「きぃぃぁぁああああ!!!」
糞女神の呪いに胸を押さえながら仰け反った俺は、地面に倒れて転がった。
まさか自分の脳内連結が、一目惚れイコール煩悩に直結しているとは本人ですら思わなかった
のだ。
不覚である。
俺は死にそうなぐらいの痛みに気を失ってしまった。
【つづく】